人気ブログランキング | 話題のタグを見る

アルチザン。


もう10年以上前

ブライダルを主とした仕事をしている
ホテル店の花屋で働いていた時期があった。

まだ20代前半だった事もあり、周りは年上ばかりで

沢山の先輩達にお世話になったのだけど

その時に同じ本店勤務で部長と一緒に仕事が出来たことは、今でも宝物の思い出になっている。

部長は社長の右腕であり、30年以上社長とともに

運命共同体となって働き、いくつのもの有名なホテルに入るこむまでなった影の功労者でした。

当時でもう70歳近い年齢でしたが
仕事がとても早く、まさに皆が口を揃えていう職人でした。

ブライダルの現場にはもう出ませんでしたが

作業場ではメインテーブルの花など大量の製作物を作っていました。

ブライダルの仕事を見てみたいと思い
その花屋に入ったのですが

ブライダルのない平日に部長と一緒に行くホテルの

ロビー花の活け込みが好きな仕事でした。

遠方から来て宿泊される方にとって
ホテルのロビーのお花というのは、心をホッと和ませてくれる存在だと思う。

昔に比べると、ロビーのお花も削られて

ショボくなってしまっているホテルが多い気がしますが。

「じゃあ、栗原は反対側さして〜」と

部長と一緒に活けこむリズムはテンポがよくて、あっと言う間にいつも綺麗な作品が出来上がった。

仕事が出来る人というのは、アシスタントを連れて行っても指示が上手だ。

そして、いつも必ず活け込みが終わると
ホテルの受付のお姉さんが、「今週も素敵ですね〜」と
近寄ってきて花を眺めていた。

ホテル側の部長という職人に対する敬意をいつも感じた。

ある時、活け込み中にホテルのお客様であるご婦人が

「素敵ですね。流派は何流ですか?」と訊いてきた時があった。

部長はわざと申し訳なさそうに

「ただのデクノボウです。

と(池坊ではなくて)ジョーク。

ご婦人「あら!まあ(笑)」と。

今でも思い出すと笑える。


そんな部長とは、一緒にお昼をご一緒させて頂いたり

帰りも一緒の電車に乗って帰っては

昔の話を沢山してくれました。

通りすがりにショップのウィンドウディスプレイで素敵な花が活けてあるのを見つけると、

その場で、花材の組み合わせをメモにして絵を書いたりして勉強したという。

今はスマホがあればすぐに写真を撮れる
裕福な時代なんだなと思ったり。

私が辞める最後の日のロビー花の活け込みの時は

部長が事前に花材をセレクトして仕入れ担当に頼み

使用する花を全て新聞紙に包み前日に用意して下さっていた。

無我夢中で活けた最後の活け込みが終わると

「よし、卒業!栗原合格〜」と言って頂いた。

腰につけた鋏が似合っていた部長。

決して雑誌やメディアなどに出てくるような人ではない。

お客様に敬意を持って愛される

本物の職人としての姿を見させて頂いた気がする。


うわさではもう引退されたとか。

アルチザンとはフランス語で職人という意味。


アルチザン。_d0177013_17341050.jpg



アルチザン。_d0177013_17341134.jpg


先日、新調した

最高峰と名高い、国治の和鋏。

その中でも、どうせならと最高クラスのものを選んだ。

こんなに高い鋏を買ったのははじめてだ。

そろそろ花の世界に入って18年。

気持ちが高まっている今だからこそ、本物を手にしてみたいと。

この鋏が泣かぬよう、部長のように本物のアルチザンになってイイ仕事をしていきたい。

アルチザン。_d0177013_17341175.jpg



by florist-allure | 2017-07-28 17:37 | 語り

心の目でみた色とりどりに咲きほこる世界


by florist-allure